狸仙経済夜話 

第一話 アメリカが試用した土地本位制の崩壊

 1.土地本位制導入の前段階

 2011年を以て、世界経済はどうやら新たな様相に入りました。ゼロ金利社会が到来したようです。

これは信用通貨制度が根本的に変わることを意味しています。こうなった最大の理由は、大衆を消費過剰に導いて経済を成長させ、社会を安定させてきたワンワールドの戦略が行き詰ったからです。(ワンワールド【世界秘密勢力】については稿を改めて解説します)。

日欧らの国民国家型先進国では、国民間の教育格差を解消して経済的格差を縮めたため、均質的社会に近づくなかで、@北西欧のように家計余剰を国家が税金で吸い上げて、社会福祉を充実させるか、A日本のように家計余剰を貯蓄に回させるか、のどちらかが国家の運営方式でした。貯蓄には、金融貯蓄だけでなく実物貯蓄すなわち持家も含まれ、却ってこれが家計資産の中で大きな比率を占めます。日本では、この持家政策が下敷きになり、「プラザ合意」によるドル買い円売りによる過剰流動性が、昭和60年から平成初年にかけて(85年から90年にかけて)顕著な土地バブルをもたらしました。

ところが移民社会のアメリカでは、国家運営の方式が国民国家型の先進国とは当然異なります。単一(融合)民族と移民の文化の違いがそこに出るからです。数世紀にわたり移住してきた白人ら、すなわちアイリッシュ・イタリアン・ジャーマン及びドイツ系ユダヤ人らは、原産地の欧州で学校教育を受け基礎的教養を備えていましたから、直ちに経済成長の戦力となりました。先行移民だったアフリカ系黒人も、第二次大戦後には政策的に市民権の向上が行われ進学率も向上したために、顕著な変化をアメリカ社会にもたらしました。

ユダヤ人の金満未亡人と黒人運転手との25年間の交流を描いた映画『ドライヴィング・ミスデージー』は、戦後のアメリカ社会の著しい変移の断面を見事に切り取っています。夫妻はドイツから移住してきたジャーマン・ジュー(ドイツ系ユダヤ人)で、無一文から繊維事業を始め大富豪になった夫が死に、後を引き継いだ息子はクリスチャン妻の影響でユダヤ教を実質的に棄教して老婆を失望させます。一方、字も読めなかった運転手(モーガン・フリーマン)の孫娘は教育を受けて、大学の生物学教授になります。

こうした中で、終には統帥権の元締めパウエル参謀総長と、統治権の総攬者オバマ大統領が出現しました。それを先導したのが、1970年以後のハリウッド映画とテレヴィ・ドラマであることは、番組内容が露骨に示しています。警察や軍隊の場面には黒人の高官が目立って増えてきました、近来の映画では司法官の半分を黒人女性が演じていて、黒人の地位向上が当然のように表現されています。これはおそらく、現実の比率とはかなり異なるのでしょうが、現実が必ず追い付くとの計算があるのでしょう。

主役の黒人は、悉く正義感に溢れたヒーローか、その支援者です。演じる黒人俳優は、70年代はシドニー・ポアチエだけが意外性に満ちたエリート役を演じていましたが、80年代には3枚目が数多く登場して警察もので大活躍しました。90年代になると、デンゼル・ワシントンやモーガン・フリーマンが、誰にも分かる知的な正義漢役で活躍しています。2000年代に入ると、黒人高官の中にもさすがに悪役や金権的人物が出てくるようになり、近来は、善悪いずれの役割か、肌色を見ただけでは直ぐには分かりにくくなりました。

その一方、第二次大戦後も恒常的に移民を受け入れたアメリカには、ヴェトナム系やコリアンらが新顔として参入しました。これらアジア系移民は、原産地東洋の多神教文化がアメリカ社会に適応しえたため、急速に社会的地位を獲得しましたが、カソリックのヒスパニック系とモスレムのアラブ系は、宗教と家族制度に支えられた伝統的生活様式を固守することで、アメリカ伝統のWASP文化との間で一神教的対立を生じました。これが均質社会の進展を遅らせたこともあり、アメリカ国内では常に新たな経済格差が生まれ続け、階級対立が原因で、経済大国でありながら、また先進社会を誇りながら、アメリカでは医療保険制度さえ実施できませんでした。

アメリカ社会における経済格差のもう一つの原因は、現状が麻薬社会であることで、これはハリウッド映画を観れば明らかであります。その理由を説明しようとして前置きが長くなりましたので、以下を省略しますが、要するに格差社会そのものが麻薬・覚醒剤を必要としているので、その点は19世紀の清国社会とよく似ています。

またアメリカが軍事国家で、国民に兵役を課して世界各地で戦闘行為をさせてきたことが麻薬・覚醒剤使用の風習を助長したことも、述べておかねばなりません。軍が麻薬を常備するのは、戦闘に勝つために、それが必要だからです。ともかく、クスリ依存率の高いアメリカの下級階層では、家計収入の中のクスリ代の比率が中堅階層よりも遙かに高く、色々な悪現象が発生してアメリカ社会を動揺させています。

アメリカでは子供2人の4人家族で年収22千ドル(170万円)以下を貧困層(ポヴァテイ・ライン)と規定していますが、2010年には4618万人に及び、貧困人口率が全国民の6人に1人、黒人では4人に1人と謂う驚くべき割合に達しています。食糧費が安く、フード・スタンプを貰えば食う事だけは出来るのですが、この収入では貯蓄は不可能で、持家なぞ考えも及びません。貯蓄がなく、永遠に自分の家を持てない家庭では、子女の進学率も上昇せず、貧困→無教育→貧困の悪循環から永遠に抜け出せない。

どうやらこれは得策ではない、とワンワールドは考えたのでしょう。そこで考え付いたのが大衆に迎合した住宅政策(土地本位政策)だったようです。85〜90年の日本の住宅バブルにヒントを得て、日本から10年遅れて実行されたこの政策により、1996年から2006年にかけての10年間にアメリカの住宅価格は3倍になりました。

日本の場合は、もともと高い国民の貯蓄性向の基盤の上に、政府・日銀の貯蓄奨励政策の一環として、持家政策がありましたが、貯蓄性向の低いアメリカで持家政策を進めるには、公的な住宅金融制度によるしかありません。日本でもそれが行き過ぎて、住専(住宅金融会社)の倒産問題が発生したのですが、アメリカではことに甚だしく、住宅金融公社の破綻のツケが連邦政府に回り、今日の財政難の主要な原因となっています。

バブル破綻後の日本は、何処かからゼロ金利を強制され、国民の預金を比較的高金利のアメリカに回し、住宅バブルの資金を供給してきましたが、そのアメリカも2006年に住宅価格がピークを打って、バブル崩壊に遭遇しました。そこで、平成7(1995)年以来の日本の轍を踏んで、ゼロ金利制を採用するようになると思われます。

         2011・9・9  表現一部修正               狸屋主人仙兵衛しるす