●吉薗佐伯の本格画




先日、某所で佐伯祐三の本格画3点を見る機会がありました。今までの佐伯作品とは全く印象が異なるものでした。
まず、画布が全く違います。従来の評伝通りの亜鉛華でかなり厚く地塗りがされていてキャンバスの地は全く見えません。それに加えて太い筆を使い力強いタッチで絵が描かれており、とてもインパクトのある絵です。
一方、今まで佐伯作品と言われていたものの画布は塗りが薄く、キャンバスの地が見えるものもある位です。また、絵の具の塗りも薄く、円く絵の具が塗られているため四隅にキャンバスの地が見えるものも多くあります。佐伯の本格画を見た後に従来の佐伯作品を見ると、下地の野太い線の上に細かい筆で描かれた文字や輪郭線が嫌味に思えてきます。
今まで、佐伯の絵に関して「下地の太いタッチ」と「細い筆を使った文字、輪郭線」の違和感について言及しているのは、修復家の杉浦勉氏だけだと思いますが、改めて従来の佐伯作品を見てみると、確かにそう思います。これも、佐伯の下描き画を下地に米子が加筆したと考えると合理的に解釈できると思います。
特に画布に関しては、佐伯の幼友達である阪本勝やパリ時代の画友である渡辺浩三ともに亜鉛華(酸化亜鉛)を大量に使用していると述べているにも関わらず、山発コレクションのほとんどの絵の画布サンプルからは炭酸カルシウムしか検出されませんでした。これを解析した創形美術学校(所長歌田眞介氏)の宮田氏が佐伯が炭酸カルシウムと亜鉛華を間違えていたと解釈していますが、もう一歩踏み込んで炭酸カルシウムを含んだ画布の意味を探るべきでした。さらに評伝通り亜鉛華を含んだ画布がどこかにあるはずだ、という考えに到るべきだったと思います。従来の佐伯作品(山発コレクション)と吉薗佐伯本格画との違いを表にまとめてみます。

画布の塗り

絵の具の塗り

絵の特徴

従来の評伝で言われている画布との整合性
(亜鉛華の含有)

推定されること

従来作品 薄い。中にはキャンバスの地が見えるものもある。 薄い。円く絵の具が塗られており、四隅に絵の具を塗られていないものもある。 太い線の上に細い筆で輪郭線、文字が描かれている。

×

カルシウムが主成分
佐伯の下描き用画布に描かれた佐伯の下描きに米子が細かい筆で加筆。
吉薗佐伯 非常い厚い。丸い球状に地塗りの塊が見えるものもあり。 画面全体に非常に厚く塗られている。 太い線で構成。人などが朦朧と表現されている。細い線による描写はない。

亜鉛華が主成分
佐伯自筆の本格画。

ここまで書いていて気付いたのですが、あれほど騒がれた真贋論争の中で、はたして何人の人達がきちんと修復された吉薗佐伯の絵を見ているのでしょうか?

真作派/贋作派

修復した吉薗佐伯画を確認をしているか?

備考

贋作派
東京美術倶楽部鑑定委員
×
額に固定していない修復前の絵を見て鑑定?
贋作派
芸術新潮
×
東京美術倶楽部で撮影した写真しか見ていない。編集部次長立花卓、編集部高山れおなの2人が落合氏を訪ねて修復した絵を見たが雑誌には反映されなかった。(記事を書いてから取材にきた → 話を聞くつもりはなかった)
贋作派
安井収蔵氏
×
東京美術倶楽部で撮影した写真の質の悪いカラーコピーしか見ていない。
贋作派
修復家 歌田眞介氏
×
修復を頼まれたが、贋作と判断し断ったため修復した絵は見ていない。
真作派 → 贋作派
武生市選定委員会
「モランの風景」、「郵便配達人」などを見ている。絵に関しては、「佐伯の本当の姿が響いてくる」など肯定的な意見を述べていたが、「小林頼子報告書」 により吉薗資料が否定されて、贋作とされた。絵を見ての主観評価では、真作と評価していた。
真作派
落合莞爾氏
「町並み」、「モランの風景」など5点、「郵便配達人」など多数の吉薗佐伯画を見ている。
真作派
修復家
杉浦勉氏
「町並み」、「モランの風景」など5点、「郵便配達人」などを修復した。
真作派
修復家
黒江光彦氏
上記以外の3点ほどの本格画を修復した。

上の表から。、贋作派の人達は「きちんと修復された絵を見ないで鑑定、真贋の判定を行っていた
ことが分かると思います。全くひどい話ですね。修復して、枠に固定しなければ、たとえ名画であってもゆがんで見えるそうですし、
少なくとも贋作と決め付けるのであれば、対象となる絵をきちんと見ることは必須条件ではないでしょうか?
以上のことからも、この真贋論争自体がまっとうな論争でないことが明白だと思います。           


佐伯に戻る (Since 2000/06/03)