吉薗さんの佐伯コレクション
「鑑定の46点すべて偽作」
東京美術倶楽部業界に注意呼びかけ
  洋画家、佐伯祐三の未発表作品の真贋問題で、東京美術倶楽部は25日、鑑定委員会を開き
「倶楽部に鑑定に持ち込まれた一連の作品はすべて偽作」と確認、画商業界でこれらの作品を
扱わないよう注意を呼びかけた。委員会後、緊急記者会見した三谷敬三会長は「鑑定結果には
自信がある」と語った。また岩手県遠野市の主婦、吉薗明子さん(50)から「作品」の寄贈を受けた
福井県武生市の選定委員会の河北倫明・美術館連絡協議会理事長は「(偽作との)鑑定については
知らなかった」との困惑の表情だった。
  同倶楽部ではこの日、正午から定例の鑑定委員会を開いた。終了後、三谷会長と鑑定委員
の長谷川徳七・日動画廊社長が記者会見。「昨年2月ごろに、吉薗さんの佐伯コレクションの
油絵16点、水彩画30点が持ち込まれた。見た瞬間に贋作と分かったが、約2ヶ月間、科学的
にも慎重に検査した結果、すべて偽作と鑑定した。そのうち一点が、武生市が公開したもの
と一致した」と経緯を説明した。三谷会長は「業界を守るために鑑定しており、鑑定結果には
自信がある」と話した。
  今月18日に「真作」という判断を示した河北氏は「絵の修復をしている京都の専門家が、絵
の具などを科学的に調べたが、その結果を参考にしたうえで、絵の傾向から総合的に本物と
判断した。科学的な問題は京都の修復家と同倶楽部で協議して最終的に決めればいいのでは
ないか。私が信じたのは、信用できる人から最初に(真作と)聞いたからだ」などと語った。
  一方、同市の小泉剛康市長は25日、市役所で緊急会見を行い、「(作品に対して)いろんな
声が出るのは当然。ただ、私としては選定委員会の意見に重きを置き尊重する」と話した。
今年、「佐伯祐三のパリ」(大日本絵画)を出した美術評論家、朝日晃氏は「二十数年間、佐伯
の研究を続け、遺族らすでになくなった関係者からも話を聞いているが、佐伯の周辺で吉薗
という名を聞いたことはない。税金で絵を買う以上、武生市は慎重に科学的鑑定などを行う
べきだった」と話している。


寄贈話 都城市にも“打診”
福井県武生市が購入を前提に寄贈を受けた未発表の佐伯祐三コレクションは、
その一部が贋作と鑑定されたことで、180点と言われるコレクション全体の真贋問題に波及しそうだが、
同市と遠野市だけでなく、宮崎県都城市にも寄贈話が持ち込まれていたことが25日分かった。
初めに吉薗さんが話を持ち込んだのは、自分の住んでいる遠野市だった。「東京に住んで
いた父のコレクションに佐伯の未発表作品がある」として、今年1月「数十点を寄贈したい」と
申し出た。市は、寄贈を前提に「佐伯美術館」の新設構想が具体化し、6月には補正予算で
400万円余の調査費もついた。
ところが9月市議会で、コレクションの真贋問題が浮上。市側は「吉薗さんがつける寄贈
条件が多いうえ、次々と変わるし、なかなか正式契約を結んでくれない」などとして、真贋
に踏み込まないまま、同月末に計画断念を発表した。
一方、都城市には今年の2月初めに、「佐伯の油絵約100点を遠野市に寄贈するが、一部だけ
でも都城に譲りたい」と電話が入った。同月中旬には、「遠野市は(新美術館建設ではなく)
既存施設を使うというので、白紙に戻した。都城に譲るため、知人がうかがう」と連絡が
入り、一気に話が本格化したという。
しかし、3月になって、武生市とも話が進められていることが分かり、不審に思った同市
美術館側が、「わざと煩雑な手続きの寄贈申込書を送った」ところ、同月下旬になって、主婦
から断りのファックスが送られ、話は立ち消えになったという。
地元財界有力者の仲介で最後に話をもちかけられたのが、武生市。遠野市などの真贋論争
を受け、武生市議会でも問題になったが、今月18日の選定委員会の結果を受けて、購入が
現実化したところだった。






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